StatFlexについて - 開発経緯 -
StatFlexは初版発売後33年10ヶ月を経過しましたが、誰がどのようなプロセスで開発し、また数理ソフトウエアとしての解析結果の検証をどのように行っているかについて、正式に公開してほしいとの要求が、最近ユーザから寄せられました。実際上、その開発を一貫して統括してきましたのは下記の経歴をもつ私、現在山口大学に所属する市原清志です。 StatFlexという大規模なソフトウエアの開発は、大学人として教育・研究に携わる中、副業として行ってきた事業でした。これには、多大な経費が必要で、StatFlexは有料で配布することが必須でした。そこでその制作費は自前で捻出し、販売は知人の会社に依頼する形をとりました。しかし、2003年大学発ベンチャーを立ち上げてはいましたが、副業であるとの意識から、私自身の関与は明確にはしてきませんでした。 幸い、定年後でより自由な立場となり、2018年に株式会社 医学統計研究所を起業していますので、この機会に、StatFlexの開発主体を明確に示し、これまでの開発プロセスを公開し、かつ統計解析結果の検証過程についても、公開することといたしました。これにより、StatFlexをご利用の皆様が、分析いただいた結果を躊躇なく公表していただけるようになることを願っています。 StatFlexの開発過程に関して、もう一つ疑問が出ると思われますのは、私の専門領域は医学、特に臨床検査医学、臨床疫学、臨床内分泌学であり、経歴からはStatFlexの開発に必要な統計学と情報技術の学術的な背景を持たない点です。 実際上、両分野の技術は、洋書を読破し独学で得たものです。その達成には、大学時代に獲得した英語による知識の習得能力が大きく関わっています。1970年山口大学医学部2年生の夏、北米をバスとヒッチハイクで80日間旅行し、米国の高速道路網、超高層ビル群、ショッピングモールのスケールに圧倒されました。そして、日本がそれに対抗するには、まずは英語力を高めるしかないと痛感、そこで医学を最大限洋書で独習すると決め、卒業までにほぼその目標を達成しました。 1975年山口大学卒業後、地元の大阪大学大学院臨床検査診断学に入学しましたが、すぐに統計学が臨床研究に必須であることを知りました。その後2冊の統計学書「Wonnacott TH: Introductory Statistics」「Siegel S: Nonparametric Statistics for Behavioral Science」に出会い、強い感銘を受けました。その後、主要な統計学書を全て英語で読みあさり、統計処理の依頼が入るようになり、学内のセミナーも開催しました。その後1982年からは全国規模の統計学集中講座を開催するまでになりました。 一方、StatFlexの開発に必要なプログラムの技術の習得は、大学院入学直後の1975年、研究室に高価なプログラム電卓(2000ステップ)の試用依頼があったことがきっかけです。それが私のコンピュータとの最初の出会いでしたが、その数冊の分厚い英語解説書を数週内に読破し、何ができるかを理解しました。早速、検査室の業務で必要な回帰直線やロジスティック曲線回帰のプログラムを独自に開発しました。 以上の経緯から、高校では数学が得意であったこともあり、統計学の数理やプログラム技術は、偶然私の思考過程に適合していたため、独学での習得が可能であったと思っています。
開発経緯
1984年~1987年
1986年 4月
1990年 3月
1992年 8月
1993年
1995年 6月
1997年 6月
1999年 9月
2002年 4月
2005年
2009年
2014年
2016年
大阪大学講師医学部の市原清志が全国規模の統計学集中講座を計9回開催
市原は、使い易い統計処理ソフトウエアがなく、受講者が誤った処理に陥りやすいことに気づく。そこで、自動的にグラフ化できるソフト作成が急務と考え、ビジュアル統計ソフト「StatFlex」の開発構想を作成。(当時)大阪大学医学部マイコンクラブのメンバー岡田氏、西山氏、他、大阪大学基礎工学部情報工学部の上野氏の協力を得て、C言語によるプログラム開発がスタートした。
同年、市原は平行して統計学の教科書の執筆にも着手した。これにより、統計理論を数理的に明確に提示し、検証可能な形で統計計算モジュールを逐次作成した。
市原は基礎統計学書「バイオサイエンスの統計学」を南江堂から出版、それと同時にStatFlex初版を完成させた。
その特徴は、①データを読み込めば自動的にグラフ化。②バイオサイエンスの統計学に掲載した全ての統計処理機能に対応。③主要な多変量解析に対応(重回帰分析機能、ロジスティック回帰分析機能、主成分分析機能、判別分析)、④全ての操作は、操作マウスがない時代であったが、アイコンで示すファンクションキーで簡単に操作可能。⑤多様な統計分析図の作成。⑥統計処理結果の編集・印刷機能、等々であった(StatFlex初版序)。
このビジュアル統計ソフトStatFlexの制作・販売のため株式会社 ViewFlexを立ち上げ、南江堂を通して販売した。いずれも大変好評となり、本はすぐに増刷、ソフトは初年度だけで3000以上のライセンス販売した。
StatFlexの分析結果は、全て「バイオサイエンスの統計学」の例題43, 演習問題30の数値例の結果と合致することを確認した。なお同書は2023年末で累計76,800冊(29刷)発行され、この33年に読者との交信は多数あったが、計算ミスの指摘は一つもなかった。